その日はいきなりやってきた。
今年一番の寒波がやって来ているなか、久しぶりの仕事を頼まれた刈谷はいつものように女主人と仕事を始めた。
しかし、何かおかしい。
自らの動きに切れがないのがすぐにわかった。
からだの節々から変なおともする。
全く仕事がはかどらないことに女主人は焦り、主人はうめき声まであげた。
もちろん刈谷も焦った。
仕事半ばにしてリタイアするのは職人かたぎの刈谷には許せない事態である。
もう10年くらいかな?
主人が呟いた。
まだそこまでじゃないんじゃない?こう見えて彼は3代目だし。
女主人は自信ありげに言い返す。
必死に仕事をこなしながら刈谷は女主人に否やと言いたかったが口をつぐんだ。
自分は二代目であり、勤続10年を迎えていた。
ここで仕事を始めた頃、自分は時代の最先端の技術をもち、どちらかと言うと女主人の未熟な手腕にイラつき隠れて舌打ちしていた。
しかし、息が上がる。
どうしたと言うのだ。
いきなりやって来た自分の衰えに狼狽えた。
それでも、どうにか仕事をやりきった。
仕事の出来映えは最悪だが、今の自分には精一杯だった。
次の仕事が出来るか自信は全くなかったし、体調不良は治療を受けてどうにかなるようなものではないと自分の体だからこそわかる。
そろそろ代替わりしてもいいころかしらね。
女主人はそういい、主人もうなづいた。
小さな頃から世話してきた息子など新人のやって来るのを楽しみにするようなことまで言っていた。
このような時、女主人は決断が早い。
自分を見て、同じ感じの方見つかるかしら?
刈谷には意見を聞くこともなく話が進んでいくのはこの業界では当たり前のことだ。
コロナ禍の今、雇用はネットだ。
すぐにスマホを手にした。
女主人は自分の目の前で、新しい職人にオファーを出して、彼は翌々日にはもうやってきた。
勝人くんよろしくね。
女主人は刈谷と同じ流派の若者を選んでいた。
勝人くんと言う新人は自分よりより多くの技術をもっているらしく、さらに図体がでかい。
同じ所で待機できるかしらね?
あと、刈谷さんはなにゴミかな?
バラバラにして燃えるゴミと不燃物かな?
刈谷はわかってはいたが花束贈呈もない解雇と残酷な今後に絶望を覚えた。
チラリと見えた勝人はニヤリと笑っていた。
あぁ、この感じには覚えがある。
一代目を見送った自分はあの時あちら側にいた。
一代目の名前はなんだったのか刈谷には思い出せなかった。そして女主人は刈谷をバラバラにしてゴミ箱に放り込んでいく。
刈谷の意識は少しずつ混濁し消えた。
勝人(カット)くんと刈谷さん。
のお話でした。😱😱😱
こんな話にしたら、私が極悪人みたいに思えてくる。