私は高専の出身で学士までそこでとった。
コロイドやミセルの分子模型を思い出しながら食器洗いをするおばちゃんだ。
学歴やら技術やらに未練はさっぱりないんだけど。
青春に未練?はあって。
私の過ごしたみたいな時間を息子にも過ごさせたかったと思う。
高専は特殊な空間で、普通校と支援学校くらい色々違ったんだと思うから、私にはいわゆる普通の高校生の青春とか、大学生のキャンパスライフがわからないんで想像するのは自分の過ごした時代だ。
息子がモテる存在になれたかは別にして。
彼にもっと楽しんでほしかったなーと
妄想はする
そんな妄想のお話を書いてみた。
ちなみに。
支援学校もせめて短大くらいまでの年齢までいられないかな?
この時代の二年間や四年間は人生のやっぱり春だと思うのだ。
ってことで。
これからは、私の思い出ではなくフィクション
ねぇ、あいつα-シクロデキストリンぽいよね。
弓構えしながら祭は一瞬視線を道場の外の喧騒にむける。
はあ?
背後で同じく弓構えしているであろう桜が間の抜けた声をあげた。
祭は雑念を振り払い静かに弓をおこす。
ゆっくりと弓を引き分けながらする静かな呼吸で夜明けまで降っていた雨の匂いが肺を満たしていく。
春の雨の香りはどこか甘いが重たい。
喧騒が遠退くような会は心地いい。
分子のレベルまで自分が深く入り込む気分になる。
自然に訪れた離れは一気に祭を日常にひきもどす。
矢はざしゅっと的の下の安土に突き刺さった。
ここ数日雨続きで纏わりつくような高い湿度を感じさせるような音は的をい抜くような爽快感をもたらさないが、雑念の混じった一射だからと納得感もあった。
しかし、そんな残心を長めにとっているとパシッと小気味良い音がして桜の放った矢が的の端をい抜いた。
桜、雑念アリでそれ?
ため息を圧し殺し礼をし、くるりと身を翻し摺り足で的前から去り、弓を立て掛けてから弓掛をした手でこつんと桜にハイタッチをする。
会中おめでと❗
ありがと。さらりとながし
で?なに?と桜は視線を外にチラリと向けながらにやりとした。
筋肉ついてるくせに細身でさ、イケメンで、文武両道で、でもγよりかなり器小さい?みたいな?
祭は三本の矢が刺さった的に視線をやると小さくため息をつく。
意識は既に放った矢にうつっていた
いつもこうだ。
三本目まではいける。
そして。
会中を逃す。
私は詰めが甘い。
また嬌声が上がりカキーンと白球が曇天にそこだけ開けた青空めがけて飛んでゆくのをいまいましい気持ちでみつめた。
なるほどね😅でもさ、シクロデキストリンてとこでまあ、うつわはあるじゃない?でさ、γとの差って、ちいさすぎない?
桜は祭と同じ空を見上げながらケラケラ笑う。
それにしても嫌い。
祭は吐き捨てるようにいうと弓から弦をはずす。
祭の通う工業高専は技術者育成のための高校、短大の五年間+大学に相当する二年間の専攻科が付属された教育機関だ。
技術系のためか女子率がかなり低い。
桜はそんな数少ない女子友達の一人でいけすかないαもクラスメートだ。
桜、ごめん。矢片付けといてもらっていい?
今日、バイトの時間までに新しい教科書買ってくるわ❗
オッケー👌
気をつけてね。
今回の教科書無茶苦茶重たいよ。
辞書みたいな本ばっかりだった😫
大丈夫だよ。
今日原付で来たしさ。
そおぉ?
スマホを触りながら桜がひらひら手を振る。
またあしたね。
楽しんでおいで。
楽しむ?
弓掛と胸当てをロッカーにしまい、私服に着替え真っ赤なヒールに片あしをつっこんでいると道場の扉がスッと開いた。
おっ、可愛い靴じゃん❤️まつりぃ。教科書、一緒に買いにいこっか🎵
車だから楽だよー。
使える男でしょ?
軽薄そうな薄い色合いの髪の毛が目前にせまり、祭の左足を躊躇なくかっさらうと優しく手慣れた手付きで赤い靴に滑り込ませた。
小さな祭をしゃがんだ姿で見上げるのはαだ。
俺の器は分子レベルじゃないし、モテるのは器に関係ないから。
あしからず。
ニヤッと笑うαに素早く手をとられて早く早くと言いながら指をからめとられる。
背後からスパーンという的中音が聞こえた。
それはまるで桜のしてやったりの高笑いのようで祭はこの厄介なクラスメート達と今年も過ごすことを楽しみにしている自分に苦笑し、絡めた指をほどくと真っ赤なヒールで駆け出した。
陵介、早くいくよ❗